貴景勝の大関昇進での口上
2019年春場所で大関の座を掴んだ貴景勝。
ふつう、前師匠の貴乃花親方にならって四字熟語を用いると思われた
貴景勝の口上は『武士道精神』。
彼はこう述べた。
「四字熟語を使えば、まずその意味がフォーカスされ、
自分らしさ、自分自身が薄れてしまうような気がしました。
横綱になることができれば、
前師匠の貴乃花親方にも忠誠があるので、四字熟語を入れてみたい。これから先、最高位を目指す上でも、
初めての口上は自分らしくいこうと決めました。」
★四字熟語に変わるもの★
武士道精神(ぶしどう-せいしん)
大関の座をつかんだ貴景勝は
「謹んでお受けいたします。
大関の名に恥じぬよう、武士道精神を重んじ、感謝の気持ちと思いやりを忘れず、
相撲道に精進してまいります。
本日は誠にありがとうございました」
と口上を述べた。
身長は175センチ。平成以降、
170センチ台の大関は誕生していなかった。
「よくバカにされてた。俺は関取になるって言ったら笑われた。それが発奮材料。
つらいから泣く、うれしいから喜ぶ、
そんな感情を表に出さないのが武士道です。
武士の情け、義理人情を重んじて生きる。
男として、恩を仇(あだ)で返すような裏切り行為はあり得ません。
支えてくれた人には恩返しをしなければと思っています。
武士道には、「義」正義、「勇」勇敢、「仁」情け、「礼」敬意、「誠」誠実、そして名誉と忠義があります。
名誉は誇りやプライド、忠義は忠誠心。
全てに「勝っておごらず、負けて腐らず」が宿り、
全てを磨いて自分自身を成長させます。
武士道精神の後に続けた「感謝の気持ちと思いやり」。
これは埼玉栄高のスローガンです。
地元を離れて初めて外の世界に触れ、人間的に成長させてもらいました。
高校3年間がなければ今の自分はない。
言葉を胸に刻み、多くの人に支えられ、ここまできました。
自分の力でのし上がったなんて思いません。強くなり態度が変わるような人間にもなりたくない。
力士は武士の一部。相撲はスポーツとは違います。
歴史と伝統を重んじ、
力士たるものどうあるべきかを究める先に、最後の扉があるのだと思います。 (大関・貴景勝)
武士道精神とは
日本の武士道精神(サムライスピリット)や
仏教、禅など、海外からの注目度・関心度は非常に高い。
サムライの基本となる武士道精神には
人が人として生きる道が説かれています。
そのため無用な殺生はせず、よほどの状況にならなければ刀は抜きません。
ただ刀を持っているだけではサムライとは呼べないのです。
武士道精神とは武士を意味する言葉ではありません。
この精神は、
仁、義、礼、智、信、忠、誠に基づいており、
サムライだけなく女性にも子供にも万人に与えられる精神であります。
日本の武士道精神・美は、自己規律の精神、内面の美しさを表しています。
そんな武士道精神は、以下の7つから成形されています。
「仁」情けを表し、たとえ敵でも相手に情けをかける。
「義」フェアプレイを表し、たとえ勝負に勝っても不正行為で勝ちえた勝利は賞賛されない。
「礼」他人に対する思いやりを表し、相手に見える形で表す。
「智」物事の本質を見極め、常に切磋琢磨し、より良い手法を得ようとする心得。
「信」信じる強さ・信頼を表し、契約という概念なくしても口約束で十分事足りる。
「忠」愛する者への自発的忠誠心を表し、これは強制されるものではない。
尊敬していない者、愛してしない者への忠誠心は存在しえない。
「誠」言+成=言った事を成す。とした意味があり、
一度でも口にした事は命がけで守り、
守れなければ死をもって償う。
すなわち「信」が成り立つのは、「誠」あってのこと。
食に関しても武士道精神は影響しています。
西洋にも食事の前に神に祈りを捧げる習慣が一部残っている。
しかし、日本の食事では神のみでなく
命を頂く動植物に対して礼をする精神となる。
それは全ての動植物に神が宿ると考えるからであり、それが「いただきます」という言葉に込められている。
彼らの命を頂き次の糧とする。
同じ命である以上、人間も動物も植物も対等という考えからだ。
日本では、性善説でもなく性悪説でもなく、
善悪は誰しも持ち合わせているという前提に立ち、境界線を引かない「和」精神が育まれてきました。
それが日本文化の奥深さであると同時に、わかりずらさでもあるのです。
誰しも悪に陥る可能性を秘めており、
自分の立ち位置、相手の立ち位置、自分の大儀、相手の大儀によっては善と悪の捉え方は大きく変わります。
この真理を突き詰めていくと境界線を引くことに何の意味もないことに気が付くのです。
あとがき
最近になって、2003年のアメリカ映画、
トム・クルーズ主演の『ラストサムライ』を観た。
そこには、明治初頭の日本を舞台に、
時代から取り残された侍達の生き様が描かれていた。
史実をテーマとした歴史ドラマではないことは重々承知していたけれど、
外国の人がとらえる日本人像に、今の日本に無くなりかけている大事な物を見た気がしました。
主演のトム・クルーズもヒーローとしての真の主役ではないのですが、
サムライの勇敢で美しいイメージを最大限に美化したフィクションを素直に観ることができ、
思いのほか好印象を持ったのを覚えています。