
今日の四字熟語は
獅子奮迅(ししふんじん)
なんのこれしき
なんのこれしきと掻きわけ掻きわけ、
めくらめっぽう獅子奮迅の人の子の姿には、
神も哀れと思ったか、ついに憐愍(れんびん)を垂れてくれた。
(太宰治『走れメロス』より)
★今日の四字熟語は★
獅子奮迅(ししふんじん)
獅子奮迅の意味とは
獅子が奮い立った時のように、他を圧倒し、
猛烈な勢いで活動すること。
獅子=「しし」と読み、
①百獣の王、ライオン。
②仏のたとえ。
奮迅=「ふんじん」と読み、
すさまじく奮い立って突き進むこと。
奮=ふるう。いさむ。 ふるう=気力が充実して勢いがさかんになる。
迅=はやい。はげしい。
奮い立つ=「ふるいたつ」と読み、心が引き締まって何かに立ち向かおうとすること。
ライオンが、奮い立って突き進むように、物事に対して、勢いよく動き回り、 奮闘すること。
獅子奮迅について
もともとは、仏教の言葉です。
お釈迦さまが、三昧に入ると、 獅子のように勢いが強くなり、他の修行者を圧倒させてしまう程の力がある、ということから「獅子奮迅」は生まれ、のちに一般の言葉としても使われるようになりました。
また、「獅子」の意味に、仏が、他に恐れるものがなく、人間の中の王である、という意味があります。
<出展>
『大般若経(だいはんにゃきょう)』五十二
獅子王の自在に奮迅するが如し。
『法華経』従地涌出品では、如來は今、諸佛の智慧と、諸佛の自在の神通の力と、諸佛の【獅子奮迅】の力と
諸佛の威猛(たけだけ)しき大勢(ダイセイ)の力とを顕發(ケンパツ:明らかに)し、宣示(センジ:知ら)せんと欲する。
と記載があります。
<用例>
頭の傷口から流れ出る血が右眼にはいり、周三は左眼を頼りに獅子奮迅のいきおいで荒れくるった。
(津本陽『富士の月魄』)
太宰治『走れメロス』より
濁流は、メロスの叫びをせせら笑う如く、ますます激しく躍り狂う。
浪は浪を呑み、捲き、煽(あお)り立て、そうして時は、刻一刻と消えて行く。今はメロスも覚悟した。
泳ぎ切るより他に無い。
ああ、神々も照覧あれ!
濁流にも負けぬ愛と誠の偉大な力を、
いまこそ発揮して見せる。メロスは、ざんぶと流れに飛び込み、百匹の大蛇のようにのた打ち荒れ狂う浪を相手に、必死の闘争を開始した。
満身の力を腕にこめて、押し寄せ渦巻き引きずる流れを、なんのこれしきと掻(か)きわけ掻きわけ、めくらめっぽう【獅子奮迅】の人の子の姿には、神も哀れと思ったか、ついに憐愍(れんびん)を垂れてくれた。押し流されつつも、見事、対岸の樹木の幹に、すがりつく事が出来たのである。ありがたい。
メロスは馬のように大きな胴震いを一つして、すぐにまた先きを急いだ。
一刻といえども、むだには出来ない。
陽は既に西に傾きかけている。
あとがき
かつて若乃花・貴乃花の両力士が大関や横綱への昇進伝達式での口上で使用したことを機に、半ば慣例となっていた「四字熟語」。
ここから、このブログの四字熟語シリーズが始まったともいえる。
今回ご案内した四字熟語は「獅子奮迅」。
日本相撲協会を退職することが決まった貴乃花親方(元横綱)は、「貴乃花後援会」のホームページを通じて
2018年10月1日、「皆様への感謝と、貴ノ岩への思い出」と題してコメントを投稿している。
貴乃花部屋で初めて関取になった貴ノ岩が、09年九州場所で三段目優勝した際に自身が車中で号泣したこと。
そして先日は、「大相撲は不滅です。土俵は必ず日本国の遺産として遺ります。」と相撲への愛をコメントした。
さらに貴乃花親方は、所属力士8人、床山、世話人の計10人の千賀ノ浦部屋への所属先が変更になったことを確認して日本相撲協会を退職した。
引退した貴乃花親方について、誰もがこう思うでしょう。
「せっかく改革の思いがあって、部屋の若い衆にもたくさんいい関取衆がいたのに。続けたら良かったのに‥」と。
しかし、貴乃花の獅子奮迅の人生は今はじまったばかり。きっといい方向を向いていると筆者は信じています。